夕方、道具を届けに、引き渡しからしばらく経ったお施主さんの家へ寄ったときのことです。
玄関先で立ち話のつもりが「まあ上がってください」となって、夜のリビングにお邪魔しました。そこで施主さんがぽつり。
「うちのリビング、なんだか落ち着かないんだよね。明るいんだけど……明るすぎるっていうか」
見上げると、天井いっぱいに昼白色のダウンライト。たしかに手元は明るい。書類の字もよく読める。でも、なんというか、くつろぐ光じゃないんです。
照明の失敗談でよく言われる表現に、「ドラッグストアみたいに白い光が煌々とついた、ただ眩しいだけの部屋になってしまった」というのがあります。うまいこと言うなと思います。売り場の照明は商品を見せるための光で、人がくつろぐための光ではない。その光が、毎晩、家族の団らんの上に降ってくるわけです。
照明の怖いところは、間取りやキッチンと違って、打ち合わせの一番疲れてきた終盤にやってくること。「照明とスイッチはこの位置でいいですか」「はい、お任せします」──この一言で、10年分の「なんだか落ち着かない」が決まってしまうことがあります。
この記事では、大工として現場で見てきた照明の後悔パターンと、光の色・スイッチ位置の考え方を書きます。窓と同じく、照明も「四季と暮らす」ための大事な道具です。チェックリストも用意したので、打ち合わせ前にぜひ。
照明の後悔は「夜」にしかわからない
モデルハウスの見学も、土地の下見も、打ち合わせも、ほとんどが昼間に行われます。図面も昼の顔しか見せてくれません。
でも、照明が働くのは夜です。
仕事から帰ってきて、夕飯を食べて、子どもと過ごして、お風呂に入って、眠りにつくまで。家族が家でいちばん長く一緒にいる時間帯は、実は照明の下なんです。とくに冬は、夕方5時にはもう暗い。平日に家族が太陽の下で顔を合わせる時間より、照明の下で顔を合わせる時間のほうが長い家庭は、珍しくないと思います。
それなのに、照明計画に使われる打ち合わせ時間は、間取りの10分の1もないのが普通です。電気図面を渡されて、丸い記号がいくつも並んでいて、正直よくわからないまま「お任せします」。──気持ちはよくわかります。あの図面、慣れていないと読めませんから。
でも「お任せ」の結果が、冒頭の「明るいけど落ち着かないリビング」だったり、毎晩ベッドから出て電気を消しに行く寝室だったりする。照明とスイッチは、後から直せなくはないけれど、壁や天井の中の配線からやり直すことになるので、それなりの工事とお金がかかります。やっぱり、最初が肝心なんです。
まず「光の色」から──電球色・温白色・昼白色の使い分け
照明計画で最初に決めてほしいのは、器具の数でも配置でもなく、光の色です。ここを外すと、あとで何をやっても取り返せません。
住宅で使う光の色は、ざっくり3つ覚えれば十分です。
| 光の色 | どんな光か | 向いている場所 |
|---|---|---|
| 電球色 (約2700K) |
夕日のようなオレンジがかった温かい光。くつろぎ・リラックス向き | リビング、寝室、和室、縁側、トイレ |
| 温白色 (約3500K) |
電球色と昼白色の中間。自然で万能。迷ったらこれ | ダイニング、洗面所、キッチン、廊下 |
| 昼白色 (約5000K) |
太陽光に近い白い光。手元がはっきり見える作業向き | 書斎・ワークスペース、クローゼット、家事室 |
ポイントは、「作業する場所は白く、くつろぐ場所はオレンジに」という原則です。
ドラッグストアやコンビニの売り場が昼白色なのは、商品をはっきり見せるため。オフィスが昼白色なのは、仕事の効率のため。つまり昼白色は「がんばる光」なんです。夜のリビングまで「がんばる光」にしてしまうと、体は明るさで覚めたままなのに、心は休まらない。あの「明るいのに落ち着かない」の正体は、だいたいこれです。
逆に、洗面所を電球色にすると顔色がよく見えすぎて化粧がしにくい、書斎が電球色だと文字仕事に向かない、という逆方向の失敗もあります。部屋の名前ではなく「そこで何をするか」で色を決めてください。
現場で見てきた「照明」の後悔パターン
ここからは、実際に見聞きしてきた具体的な後悔を書いていきます。
家じゅう真っ白──「とりあえず昼白色」で統一してしまった
光の色を決めないまま進めると、なぜか家じゅう昼白色で統一されがちです。「明るいほうがいいですよね」の流れで、リビングも寝室も廊下も全部白い光に。
入居直後は気になりません。むしろ「明るくていい家だ」と思う。でも、暮らしはじめて数ヶ月すると、じわじわ効いてきます。夜、家のどこにいても休まる場所がない。寝る直前まで白い光を浴びて、なんだか寝つきも悪い。
調光・調色機能付きの器具にしておけば、後から光の色も明るさも変えられます。全部の部屋に付ける必要はないですが、リビングとダイニングだけは調光・調色にしておくのを私はすすめています。ここは家族の時間が一番集まる場所で、食事のとき・くつろぐとき・子どもが宿題をするときで、必要な光が全部違うからです。
ダウンライトを並べすぎた──眩しいのに、なぜか暗い
最近の新築はダウンライトが主流です。天井がすっきりして掃除も楽で、私も好きな器具です。ただ、使い方を間違えると厄介なことになります。
ダウンライトの光は真下に落ちます。横にはあまり広がらない。だから数を増やしても、天井や壁は暗いままなんです。その結果、「光源は眩しいのに、部屋全体はなんだか暗い」という不思議な状態になる。ソファに寝転んだら真上のライトが目に刺さる、という声も本当によく聞きます。
コツは、ダウンライトだけで部屋を明るくしようとしないこと。壁や天井を照らす間接照明やブラケット、スタンドライトを組み合わせて、光を「点」ではなく「面」で置いていく。壁が明るい部屋は、照度計の数字以上に明るく、広く感じます。ソファやベッドの真上にダウンライトを置かない、というのも図面段階で確認してほしいポイントです。家具の配置が決まっていないと照明の配置も決められない──照明計画が家具計画とセットだと言われるのは、こういう理由です。
スイッチの位置が、暮らしの動きと合っていない
照明そのものより、実は後悔の声が多いのがスイッチです。毎日、何十回も触るものだから、数センチのズレ、数歩の遠回りが、じわじわストレスになります。
現場で聞いてきた「スイッチあるある」を挙げてみます。
寝室のスイッチがドアの横にしかなくて、電気を消してから真っ暗な中をベッドまで歩く。あるいは布団に入ってから「あ、消してない」と気づいて、もう一度出る。──枕元で消せる3路スイッチ(2ヶ所から同じ照明を操作できるスイッチ)にしておけば済んだ話です。
階段や廊下も同じで、1階と2階の両方から点け消しできないと、どちらかが必ず暗闇を歩くことになる。リビングのように出入口が複数ある部屋も、それぞれの入口にスイッチがほしい。
もうひとつ多いのが、開けたドアや家具の裏にスイッチが隠れてしまうパターン。図面では気づきにくく、住んでみて「なんでここに……」となる。ドアの開く向きと、置く予定の家具の高さまで含めて、スイッチの位置を追いかけてみてください。帰宅時に荷物で両手がふさがっていることが多いご家庭なら、玄関やトイレは人感センサー付きにしてしまうのも、現場としてはおすすめです。
コンセントを忘れて、間接照明を諦めた
シリーズ第1弾のコンセントの話とつながるんですが、「ここにスタンドライトを置きたかったのにコンセントがない」という後悔も多いです。
ソファ横のフロアランプ、寝室のベッドサイドランプ、テレビボード裏の間接照明。天井の照明を減らして雰囲気のある部屋にしようとすると、床置き・据え置きの照明が主役になります。そのための電源を図面段階で仕込んでおかないと、延長コードが床を這うことになる。照明計画とコンセント計画は、同じ夜の絵を描く一枚の計画だと思ってください。
山梨の夜と照明──「四季と暮らす」は日が沈んでからも続く
ここは他のブログではあまり書かれていない話です。
冬の夕方5時、もう暗い──夜が長い季節ほど、光の質が効いてくる
山梨は日照時間日本一と言われる県ですが、それは昼間の話。冬の甲府盆地は日が落ちるのが早く、夕方5時にはもう真っ暗です。そこから寝るまでの5〜6時間、家族はずっと照明の下で過ごすことになります。
夏なら7時すぎまで明るいので、照明の出番は短い。つまり、照明の良し悪しは、夜が長い秋冬にいちばん効いてくるんです。寒い季節、電球色の温かい光がある部屋とドラッグストアの光の部屋、どちらで長い夜を過ごしたいか──という話です。
冬の話をもうひとつ。甲府盆地の冬の朝は氷点下まで冷え込みますが、朝がつらい季節こそ、廊下や洗面所の人感センサー照明が地味に効きます。寒い朝、かじかんだ手でスイッチを探さなくていいだけで、ちょっと救われますから。
縁側と庭の明かり──外をほんのり照らすと、夜の家は広くなる
建築日和は「四季と暮らそう」をコンセプトに、縁側(ENGAWA)のある家づくりをすすめています。縁側の話をすると皆さん昼間の縁側を思い浮かべるんですが、私は夜の縁側もいいものだと思っています。
夏の夜、網戸越しの虫の声を聞きながらの晩酌。秋の月見。庭木をほんのり照らすガーデンライトが一つあるだけで、夜、窓の外に「見える景色」ができます。カーテンを閉め切らなくてよくなるので、リビングが窓の先までつながって、実際の広さ以上に伸びやかに感じられる。
山梨は空気が澄んでいて、少し郊外に出れば星もよく見えます。せっかくこの土地に建てるなら、夜の楽しみまで照明計画に入れてほしい。外の明かりは電源さえ仕込んでおけば後からでも足せますが、その電源(外部コンセント・軒下配線)だけは設計段階で忘れずに、です。
後悔しないための「3つの問い」──打ち合わせで使ってほしい
電気図面を前にしたら、この3つを自問してみてください。
Q1:夜9時、その部屋で家族は何をしていますか?
照明は「部屋」ではなく「場面」に付けるものです。夜9時のリビングで、テレビを見ている?子どもが宿題をしている?お酒を飲みながら音楽を聴いている?場面が違えば、必要な光の色も明るさも違います。場面が複数あるなら、調光・調色や多灯使いの出番です。
Q2:その照明、どこで点けて、どこで消しますか?
図面の上で、夜の自分の動きを指でなぞってみてください。帰宅して、玄関の電気はどこで点けるか。リビングを消して寝室に向かうとき、暗闇を歩かずに済むか。布団に入ったまま寝室の電気を消せるか。ひとつでも「暗闇を歩く」場面が出てきたら、3路スイッチかセンサーの検討どころです。
Q3:10年後も、その照明の電球を交換できますか?
吹き抜けの高い位置のペンダント、階段上のダウンライト。おしゃれなんですが、電球が切れたとき、誰がどうやって交換するのか。LEDは寿命が長いとはいえ10年もすれば交換の時期が来ます。脚立で届かない位置の照明は、器具選びの段階で交換方法まで確認しておいてください。
棟梁チェックリスト──照明・スイッチの確認シート
電気図面の打ち合わせのときに使えるリストです。印刷してもスマホで見ながらでも。
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部屋ごとに光の色を決めたか 作業する場所は白く、くつろぐ場所はオレンジに
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リビング・ダイニングは調光・調色にしたか 食事・くつろぎ・勉強で必要な光が変わる
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ダウンライトだけに頼っていないか 間接照明・ブラケットと組み合わせて「面」で照らす
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ソファ・ベッドの真上にダウンライトがないか 寝転んだとき光源が目に刺さらない配置か
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スタンド・間接照明用のコンセントを仕込んだか ソファ横・ベッドサイド・テレビボード裏
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寝室は枕元でも消せるか(3路スイッチ) 消灯後に暗闇を歩かない動線になっているか
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階段・廊下は上下・両端から操作できるか 1階と2階、廊下の両端に3路スイッチ
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ドアや家具の裏にスイッチが隠れないか ドアの開く向き・家具の高さまで確認する
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玄関・トイレ・廊下は人感センサーを検討したか 両手がふさがる場所・夜中に使う場所に有効
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「夜の動線」を図面の上でなぞったか 帰宅→リビング→寝室まで暗闇を歩かないか
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高所の照明の交換方法を確認したか 吹き抜け・階段上。脚立で届くか、誰が換えるか
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寒い朝の動線にセンサー照明があるか 山梨の冬の朝、スイッチを探さずに済むと楽
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庭・縁側・外構用の電源を仕込んだか 外部コンセント・軒下配線は設計段階でしか入れにくい
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夜、窓の外に「見える明かり」を考えたか 庭木を照らすと夜のリビングが広く感じる
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家具の配置を決めてから照明を配置したか 照明計画は家具計画とセット
照明を決めるタイミング──コンセントと同じ「電気配線図」で決まる
照明とスイッチは、コンセントと同じ電気配線図の打ち合わせで決まります。壁の中に配線を通してしまう前が勝負です。以下のフロー図で感覚を掴んでください。
いい照明は、家族の夜を変える
照明は、間取りやキッチンに比べると地味な打ち合わせです。図面の丸い記号を眺めていても、正直、ピンとこないと思います。
でも思い出してみてください。旅先の旅館やホテルの部屋に入って「なんだか落ち着くなあ」と感じたこと、ありませんか。あれはたいてい、照明の仕事です。天井からの白い光ではなく、低い位置の温かい光が部屋をつくっている。
同じことが、あなたの家でもできるんです。特別に高い器具はいりません。光の色を場面に合わせて、スイッチを動線に合わせて、光を点ではなく面で置く。それだけで、毎晩帰ってくる家の夜が変わります。
電気図面の打ち合わせのとき、「お任せします」と言う前に、夜9時の家族の顔を思い浮かべてほしいのです。
その顔を、どんな光で照らしたいか。
それを決められるのは、図面の記号ではなく、あなたです。
この記事が、あなたの家の夜を温かくする手伝いになれば、棟梁として嬉しいです。
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