引き渡しから一年ほど経ったお施主さんの家に、点検でお邪魔したときのことです。
リビングの掃き出し窓の前でお茶をいただきながら、ふとお施主さんが言いました。
「正直に言うとさ。二階のあの窓、一回も開けたことがないんだよねw」
笑い話のようですが、これ、けっこう根の深い話だと思っています。
開けない窓にも、開く窓の値段がかかっている。網戸も付いている。でも一度も開けない。逆に、「ここの窓が開いたらよかったのに」という場所には、はめごろしのFIX窓が付いている──窓の後悔って、だいたいこういう形でやってきます。
しかも窓は、コンセントのように後から増設というわけにいきません。壁には構造上の役割があるので、窓を一つ増やす・動かすというのは、壁を壊して耐力の計算からやり直すという話になる。カーテンレール一本付けるのとはわけが違うんです。
この記事では、大工として現場で見てきた「窓の後悔パターン」と、位置・大きさ・種類をどう考えればいいかを書きます。山梨で建てるなら知っておいてほしい「日照時間日本一」の話もします。チェックリストも用意したので、打ち合わせのお供にしてもらえたら嬉しいです。
窓の後悔は「四季を一巡り」してから出てくる
コンセントの後悔は、住んで一週間で気づきます。収納の後悔は、荷解きが終わるころ。
でも窓の後悔は、遅いんです。だいたい一年かかります。
なぜかというと、窓の不満は季節と一緒にやってくるからです。
夏になって初めて「西日がきつくて夕方リビングにいられない」ことに気づく。
冬になって初めて「大きな窓のそばがひんやり寒い」ことに気づく。
春、窓を開けて風を通そうとして初めて「風の入口はあるのに出口がない」ことに気づく。
つまり、春夏秋冬を一巡りして、ようやく答え合わせが終わる。それが窓です。
打ち合わせの図面では、窓は「壁に空いた四角」でしかありません。日差しの角度も、風の通り道も、お隣さんの窓の位置も、図面の四角からは読み取りにくい。だから、間取りやキッチンにあれだけ時間をかけたのに、窓は建築会社の提案のまま「お任せ」になってしまう──現場でよく見てきた光景です。
でも、あとで書きますが、窓は家の快適さと光熱費を左右する「熱の出入り口」でもあります。お任せにするには、ちょっともったいない場所なんです。
窓の役割は4つある──「明るさ」だけで決めると失敗する
窓の話をすると、多くの方はまず「明るい家にしたい」とおっしゃいます。それ自体は正しいんですが、窓の役割は採光だけじゃありません。大工として整理すると、窓の仕事は4つあります。
①光を入れる(採光)、②風を通す(通風)、③景色を切り取る(眺望)、④熱の出入りを抑える(断熱)。
この4つ、実は互いに引っ張り合う関係にあります。光をたくさん入れようと窓を大きくすれば、夏の熱もたくさん入ってくる。風を通そうと開く窓を増やせば、気密も断熱もFIX窓より不利になるし、値段も上がる。全部を満点にする窓はないので、「この窓の仕事は何か」を一枚ずつ決めていくのが、窓計画の基本です。
そのために、まず窓の種類を押さえておきましょう。よく使う窓を表にまとめました。
| 種類 | 特徴 | 向いている場所 |
|---|---|---|
| 引き違い窓 | 左右にスライドする定番。出入りできるサイズもある。気密はやや弱い | リビングの掃き出し窓、バルコニーへの出入口 |
| 縦すべり出し窓 | ドアのように縦に開く。壁沿いの風もつかまえられて通風力が高い | 風を取り込みたい部屋の側面、キッチン |
| 横すべり出し窓 | 下から外に押し出して開く。開けたまま雨をしのぎやすい | 洗面所、トイレ、浴室など |
| FIX窓(はめごろし) | 開かない窓。気密・断熱に優れ、価格も控えめ。換気はできない | 吹き抜けの高い位置、景色を見せたい場所 |
| 高窓・地窓 | 高い位置・低い位置に付ける小さめの窓。視線を避けつつ光と風を入れる | 隣家が近い面、和室、プライバシーを守りたい部屋 |
種類の名前を覚える必要はありません。大事なのは、「開く窓」と「開かない窓」では役割がまったく違うということ。ここを混ぜて考えると、次の章で書くような後悔が生まれます。
現場で見てきた「窓」の後悔パターン
ここからは、実際に見聞きしてきた具体的な後悔を書いていきます。
「開かない窓」と「開く窓」を、なんとなくで決めてしまった
冒頭の「一回も開けたことがない窓」の話です。
開く窓は、FIX窓に比べて値段が高く、気密・断熱では不利です。可動部がある分、将来の不具合も出やすい。つまり、開けない窓を開く窓にしておくのは、お金を払って性能を下げているようなものなんです。
逆のパターンもあります。デザイン重視でFIX窓にした洗面所やパントリー。「ちょっと空気を入れ替えたい」場所なのに開かない。においや湿気がこもって、換気扇だけでは追いつかない──こちらは暮らしへの影響が毎日続きます。
私がすすめているのは、図面の窓を一枚ずつ指さして「この窓、開ける場面を言えますか?」と確認していくことです。「布団を干すから開ける」「風の通り道だから開ける」と言えるなら開く窓。言えないなら、FIX窓にして浮いたお金を断熱ガラスのグレードアップに回すほうが、暮らしはよくなります。
お隣の窓と、まっすぐ向かい合ってしまった
窓の後悔で、住んでからのダメージが大きいのがこれです。
図面の打ち合わせでは、自分の家の中のことばかり考えます。でも窓は、外の世界とつながる穴です。カーテンを開けたら、お隣のリビングの窓と真正面。目が合ってしまってから、その窓のカーテンは二度と開かなくなった──引き渡し後の家で、昼間からレースカーテンどころか厚手のカーテンまで閉まったままの窓を見ると、大工としては切ないものがあります。
設計の段階でやるべきことは単純で、敷地に立って、隣家の窓の位置を実際に見ることです。図面に隣の家の窓までは描いてありませんから。そのうえで、窓の高さをずらす、高窓や地窓に変える、型板ガラス(すりガラスのような不透明ガラス)にする、といった手が打てます。型板ガラスは透明ガラスと採光がほとんど変わらないのに視線だけカットできるので、隣家が近い面では本当に重宝します。
リビングの大きな窓──テレビは見づらく、夏は暑く、冬は寒い
「リビングには大きな窓」というのは、ほとんどの方が最初に思い描くイメージです。私も大きな窓は好きです。ただ、大きくした分の代償は知っておいてほしい。
まず、光がテレビに反射して昼間は画面が見えづらくなることがあります。それから家具や床の日焼け。そして何より、暑さ寒さです。環境省の資料でも、夏に外から入ってくる熱の約7割、冬に逃げていく熱の約6割が、窓などの開口部からとされています。壁の断熱をどれだけ頑張っても、窓が弱ければそこから熱は出入りするんです。
大きな窓が悪いという話ではありません。方角と性能をセットで考えてほしいという話です。南の大きな窓には深い軒や庇を付けて夏の高い日差しを切る。西面の大きな窓は慎重に(山梨の西日は本当に強烈です)。ガラスは樹脂サッシ+Low-E複層以上を基本に。この組み合わせができていれば、大きな窓は家の一番の魅力になります。
掃除のことを、誰も教えてくれなかった
吹き抜けの高い位置に付けたFIX窓。見上げるたびに気持ちいいんですが、数年経つとガラスの内側がうっすら汚れてきます。さて、どうやって拭くか。
脚立では届かない。足場を組めば数万円。結局「見なかったことにする」お宅が多いのが実情です。高窓・天窓を付けるときは、「どうやって掃除するか」まで打ち合わせで確認してほしい。キャットウォークや掃除用の窓拭きワイパーが届く高さ設定など、設計段階なら手はいくらでもあります。
それと、細かい話ですが網戸とカーテンも忘れずに。おしゃれな縦長窓やスリット窓を並べた場合、一枚ずつオーダーのカーテンやスクリーンが必要になって、見積もりの最後で「カーテン代が想定の倍」ということが起きます。窓の数と形は、カーテン計画とセットです。
山梨の窓計画──日照時間日本一の県で建てるということ
ここは他のブログではあまり書かれていない話です。
日照時間日本一を、窓で受け取る
ご存じの方も多いと思いますが、山梨県は年間日照時間が全国トップクラス、統計によっては日本一の県です。太陽の恵みという点では、これ以上ない土地で家を建てることになります。
だからこそ、窓計画で損をしてほしくないんです。
静岡の建築歴23年になる工務店社長さんが、日当たりを考慮した窓配置かどうかで長期的には光熱費が100万円ほど変わるという試算を書かれていました。冬の晴れた日、南の窓から入る日差しは、それだけで立派な暖房です。日本一の日照時間を持つ山梨なら、この「太陽の暖房」の恩恵は他県より大きい。南面の窓の取り方ひとつで、30年40年の光熱費が変わってくると考えると、窓を「お任せ」にできない理由が伝わるでしょうか。
ただし、恵みは夏には牙をむきます。甲府盆地の夏の暑さは全国ニュースの常連です。夏の日差しは高い角度から来るので、南面は軒や庇でかなり防げます。問題は西日。低い角度から部屋の奥まで刺さってくるので、西面の窓は小さく・少なく・遮熱型のガラスで、が基本です。
南アルプスと富士山──「景色を切り取る窓」を一枚つくる
山梨で家を建てる幸せのひとつは、窓の外の景色だと思っています。南アルプス、八ヶ岳、場所によっては富士山。季節で色を変える山々が、敷地のどこかから必ず見えます。
建築日和のコンセプトは「四季と暮らそう」です。窓は、そのための一番の道具だと思っています。桜の季節、新緑、紅葉、雪をかぶった稜線──カレンダーではなく窓が季節を教えてくれる家。そのために、あえて「開けない窓」を一枚、額縁のつもりで景色に向けて切る。FIX窓なら性能を落とさずにそれができます。
縁側(ENGAWA)のある家づくりを私たちがすすめているのも同じ理由です。大きな掃き出し窓の内と外の間に縁側という「あいまいな場所」があると、窓は単なる開口部ではなく、家族が季節と付き合う場所になります。夏の夕涼み、秋の月見、冬のひなたぼっこ。窓の計画は、そういう時間の計画でもあるんです。
後悔しないための「3つの問い」──打ち合わせで使ってほしい
図面を前にしたら、窓を一枚ずつ指さして、この3つを自問してみてください。
Q1:その窓、開ける場面を具体的に言えますか?
「なんとなく開くほうが便利そう」は、たいてい開けません。布団を干す、風を通す、出入りする──具体的な場面が言えない窓は、FIX窓にするか、そもそも必要かを考え直す。それだけでコストと断熱性能に余裕が生まれます。
Q2:その窓から何が見えて、外から何が見えますか?
中からの眺めと、外からの見え方はセットです。隣家の窓、道路からの視線、夜に電気を点けたときのシルエット。敷地に立って、窓の高さに目線を合わせて確認する。一度やっておくと、住んでからカーテンを閉めっぱなしにする窓がなくなります。
Q3:夏の午後と冬の朝、その窓はどう働きますか?
窓は季節で仕事が変わります。夏の午後、その窓は熱を入れすぎないか。冬の朝、その窓は日差しを受け取れるか。結露はしないか。四季それぞれの太陽を想像して図面を眺めると、窓の見え方が変わってきます。
棟梁チェックリスト──窓の確認シート
打ち合わせや図面チェックのときに使えるリストです。印刷してもスマホで見ながらでも。
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すべての窓に「仕事」を一つ言えるか 採光・通風・眺望・出入り。言えない窓は見直す
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開く窓は「開ける場面」が具体的にあるか 開けない窓はFIXにしてコストと性能を回収
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風の「入口」と「出口」が対になっているか 窓は1つでは風が抜けない。対角に2つが基本
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洗面・トイレ・パントリーの換気手段はあるか FIXにするなら換気扇とセットで考える
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高窓・吹き抜け窓の掃除方法を確認したか 「どうやって拭くか」を設計段階で決めておく
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隣家の窓と正面から向かい合っていないか 敷地に立って実際の窓位置を確認する
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道路からの視線をシミュレーションしたか 歩行者・車からリビングが見えないか
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型板ガラス・高窓・地窓を検討したか 採光を保ったまま視線だけカットできる
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夜、室内の明かりでどう見えるか想像したか 夜はカーテンなしだと外から丸見えになる
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カーテン・スクリーンの費用まで見積もったか 特殊サイズの窓はカーテンもオーダーになる
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南面の窓に軒・庇の計画があるか 夏の高い日差しを切り、冬の低い日差しを入れる
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西面の窓は小さく・少なく・遮熱型か 甲府盆地の西日は角度が低く部屋の奥まで刺さる
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サッシとガラスの性能を確認したか 樹脂サッシ+Low-E複層以上が基本。結露対策にも
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テレビと窓の位置関係を確認したか 画面への映り込み・逆光にならない配置か
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「景色を切り取る窓」を1枚考えたか 南アルプス・富士山・庭の木。四季を額縁に入れる
窓を決めるタイミング──「構造と一緒に決まる」から早い
窓の決定タイミングは、コンセントよりずっと早いです。窓は壁の耐力(家の強さの計算)に直接関わるので、構造が固まる=窓も固まる、なんです。以下のフロー図で感覚を掴んでください。
窓は、家の中でいちばん「四季」に近い場所
壁は季節を教えてくれません。でも窓は、春の光も、夏の入道雲も、秋の山の色も、冬の朝の霜も、毎日届けてくれます。
だからこそ、図面の中の小さな四角を「お任せ」で流さないでほしいんです。
一枚ずつ指さして、確かめてみてください。
その窓、開けますか。
その窓から、何が見えますか。
夏の午後と冬の朝、その窓はどう働きますか。
面倒に感じるかもしれませんが、窓は一度付いたら30年、40年、そこにあり続けます。打ち合わせで立ち止まる数時間は、決して高い買い物ではありません。
日本一、太陽に恵まれたこの山梨で。
四季と暮らす窓を、一緒に考えられたら嬉しいです。
📖 後悔テーマシリーズ 第1弾
「コンセントの配置」で後悔した話──新築で一番多い後悔、現場の棟梁が解説します
📖 後悔テーマシリーズ 第2弾
収納は多けりゃいいってもんじゃない。新築で本当に後悔する収納の話をします
📖 後悔テーマシリーズ 第3弾