「補助金って、うちは何か使えるものありますか」
去年の秋まで、この質問への答えは「国の制度がありますよ」で、だいたい終わっていました。ところが今は、その前にひとつ挟むことが増えました。「やまなしKAITEKI住宅って、聞いたことありますか?」です。
多くの方は「……なんですかそれ」という顔をされます。無理もありません。認定の受付が始まったのが令和7年10月1日。まだ1年ほどしか経っていない、山梨県独自の新しい制度です。
実は、この制度はちょっとややこしいです。「補助金」という言葉だけが先に歩いていて、その中身が「家の性能を県に認定してもらう仕組み」だということが、あまり伝わっていないように思います。認定を取るには、断熱の等級も、気密の数値も、使う木材の量も、全部条件を満たさないといけません。
この記事では、南アルプス市で大工をしている立場から、この制度を現場の言葉に訳して書きます。いくらもらえるのか、何をすれば認定されるのか、そしてどういう人はやめておいた方がいいのかまで、お話しさせていただきます。

「補助金が出るらしい」で終わらせないために
まず、いちばん大事なところから。
やまなしKAITEKI住宅は、補助金の名前ではありません。住宅の「認定制度」の名前です。
山梨県が定めた性能の基準を満たしているかどうかを審査して、満たしていれば「やまなしKAITEKI住宅」として認定される。認定するのは県庁ではなく、公益社団法人 山梨県建設技術センターです。その認定を受けた家に対して、市町村が補助金を出す。県はその市町村を補助する。そういう二段構えの仕組みになっています。
ここを取り違えると話がずれます。「補助金をください」と申請するのではなく、「うちの家はこの基準を満たしていますよ!」と証明して認められれば、その結果としてお金がついてくる。と、いうものです。
ですから、着工してから「そういえば補助金ありましたよね」では、間に合いません。基準を満たす仕様は、設計の段階で決まってしまうからです。

制度そのものは、県が「未来を紡ぐ 至福の住まい」というコンセプトで進めているブランドづくりの一環です。安全安心・健康・地域と地球・住まい手目線という4つのテーマで組み立てられています。
施主様の立場で知っておくべきなのは「性能の証明書がもらえて、そこにお金と金利優遇がついてくる制度」という理解で十分だと思います。
実際いくらもらえるのか?
県のポータルサイトには、新築で最大225万円(改修は最大341万円)と書かれています。ただしこれは県・市町村の補助に国の補助を重ねた場合の最大値です。「誰でも225万円もらえるんだ!」と受け取ると、あとでがっかりします。
実際にいくらになるかは、どの市町村で建てるかで変わります。ここが意外と知られていません。
うちの地元、南アルプス市の場合を出します。市の要綱に書かれている区分は次のとおりです。
▼ 南アルプス市やまなしKAITEKI住宅普及促進事業費補助金
| 区分 | 補助額 | 条件 |
|---|---|---|
| 基本額 | 20万円 | やまなしKAITEKI住宅の認定を受けた住宅 |
| 子育て世帯加算 | 20万円 | 子育て世帯等 |
| リノベーション加算 | 20万円 | リノベーションの場合 |
| ZERO 加算 | 20万円 | ゼロエネルギー性能の基準を満たす場合 |
| FORET 加算 | 40万円 | 県産木材 5㎥以上 かつ 30%以上 |
| FORET 加算 | 50万円 | 県産木材 7.5㎥以上 かつ 40%以上 |
| FORET 加算 | 60万円 | 県産木材 10㎥以上 かつ 50%以上 |
※ 南アルプス市の資料では市の補助として最大160万円と示されています。上表の各区分がすべて重ねられるかどうかは組み合わせによりますので、実際の金額は建設部管理住宅課へご確認ください。
※ 2026年8月時点の内容です。年度によって変わる可能性があります。
ここで気づいてほしいのが、県産材を使う「FORET」の加算がいちばん大きいということです。基本額の20万円に対して、県産材をしっかり使えば40万円から60万円。制度の重心が、明らかに「山梨の木を使うこと」に置かれています。
そして、市町村によって金額の組み方が違います。たとえば甲州市の要綱を見ると、FORETの加算は40万円・30万円・20万円という三段階で、南アルプス市とは区分の切り方も金額も違います。「山梨県の制度だから、県内どこでも同じ」ではないということです。
隣の市の話をそのまま当てはめて計算すると、数十万円ずれます。土地を探している段階で市をまたいで迷っている方は、ここも判断材料のひとつになります。

認定の条件は何なのか?
ここからが本題です。では、その認定を取るには何が必要なのか。
基準は5つあります。うち2つが基本(必ず満たす)、3つが付加(満たせば加算がつく)という構成です。
▼ やまなしKAITEKI住宅の性能基準
| 基準 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|
| 基準1 長期優良住宅性能 | 基本 | 認定長期優良住宅であること/劣化対策3等級/耐震性2等級(木造壁量計算)/維持管理対策3等級相当/断熱等性能5等級/一次エネルギー消費量6等級/住宅規模75㎡以上 |
| 基準2 高省エネルギー性能 | 基本 | 断熱等性能等級6以上/相当隙間面積 C値1.0㎠/㎡以下 |
| 基準3 ゼロエネルギー性能 | 付加 | 一次エネルギー35%以上削減(再エネ除く)/100%以上削減(再エネ含む) |
| 基準4 地域資源循環性能 | 付加 | 県産木材5㎥以上、かつ木材使用量の30%以上 |
| 基準5 子育て住環境性能 | 参考 | 居住室4室以上、転落防止措置、チャイルドロック、カメラ付きインターホン、バリアフリー対応、対面式キッチン等 |
※ 出典:やまなしKAITEKI住宅ポータルサイト「性能基準」。詳細は「やまなしKAITEKI住宅指針2025」に定められています。
表にすると淡々としていますが、現場の感覚に訳すと、それぞれけっこう重みが違います。順に書きます。
🏠 基準1:まず長期優良住宅であること
これは「土俵に上がる条件」です。長期優良住宅の認定を別途取っている必要があります。耐震等級2以上、劣化対策等級3、維持管理対策等級3相当。床面積は75㎡以上。
正直に言うと、この基準1だけなら、山梨でまじめに家を建てている工務店なら、そう特別なことではありません。書類の手間はかかりますが、性能そのもののハードルは、次の基準2に比べればずっと低いと言えます。
🌡️ 基準2の前半:断熱等性能等級6以上
ここから急に難しくなります。基準1で求められている断熱は等級5。ところが基準2では等級6以上を求められます。一段上がるわけです。
等級の数字だけ聞いてもピンとこないと思うので身近な例で例えますと、冬の朝、フローリングに素足で降りたときの、あの「うっ」となる感じ。あれがどのくらい和らぐか、という話です。
甲府盆地の冬は、思っている以上に冷え込みます。気象庁の平年値で、甲府の1月の平均最低気温はマイナス2.1℃。「山梨は暖かい」というイメージで来られた方が、最初の冬に驚くやつです。
その一方で8月の平均最高気温は33.0℃。年間の較差が35℃を超える土地で家を建てている、という前提を忘れないでほしいと思っています。

🔧 基準2の後半:C値1.0㎠/㎡以下──ここが本当の関門です
大工として、この記事でいちばんお伝えしたいのはここです。
C値というのは、家全体にどれだけ隙間があるかを表す数値です。1.0㎠/㎡以下ということは、床面積1㎡あたりの隙間を1平方センチ以内に抑える、ということです。
断熱等級は、図面と計算で決まります。仕様を上げれば、計算上は誰でも到達できます。でもC値は、図面では作れません。現場で、大工と職人がどれだけ丁寧に納めたかでしか決まらないんです。
気密シートの重ね代。配管が壁を貫通するところの処理。コンセントボックスの裏。土台と基礎のあいだ。サッシまわりのテープ。どれも、雑にやっても家は建ちます。見た目にも出ません。でも、測ると出ます。
しかも、この数値は実際に測定しないと分からないもの。「たぶん大丈夫です」は通用しません。だから私は、C値の話になると少し姿勢を正します。ここは職人の仕事そのものが数字にされる、逃げ場のない項目だからです。

🌲 基準4:県産木材5㎥以上、かつ木材使用量の30%以上
FORETの加算につながる基準です。「5㎥以上」と「全体の30%以上」の両方を満たす必要があります。片方だけでは駄目です。
これは工務店側の仕入れの話でもあります。県産材を安定して確保できるルートを持っているかどうか。持っていない会社が急に対応しようとすると、材料費も工期も跳ねます。
ただ、私はこの基準はアリだな、思います。
山梨の山から出た木で、山梨に家を建てる。毎日いろんな木材に触れる大工の肌感としては近くの山の木は、この土地の気候をすでに知っているという感じがあります。
見落とされやすい、2つの落とし穴
性能の話ばかりしてきましたが、実務で「知らなかった」となりやすいのは、むしろこの2つです。
▼ 補助金を取り逃がしやすい2つのポイント
- 🏢 県内に本店を有する建設業者が施工した住宅であること 南アルプス市・甲州市の要綱で明記。申請時に建設業許可通知書の写しが必要
- ⏳ 認定通知日から一定期間内に申請すること 南アルプス市は6ヶ月以内、甲府市は3ヶ月以内。市町村で違う
🏢 県外の会社に頼むと、対象外になります
これは制度の設計思想がはっきり出ているところです。南アルプス市の要綱にも甲州市の要綱にも、「県内に本店を有する建設業者が建築工事を施工した住宅」という条件が入っています。申請書類にも、県内事業者の建設業許可通知書の写しが必要です。
つまりこの制度は、県外の大手に発注した場合には使えません。山梨の住宅産業を振興するという目的が制度に組み込まれているからです。
私が言うもの手前味噌でアレなんですが、事実だけ書いておきます。比較検討の材料として、この条件は知っておいた方がいいと思います。
⏳ 「あとで申請しよう」が効かない
もうひとつが期限です。南アルプス市は認定通知日または購入日から6ヶ月以内。過ぎたら申請できません。甲府市は3ヶ月以内とさらに短い。
加えて、年度内の受付期限もあります。南アルプス市の場合、令和8年度は令和8年4月1日から令和9年2月26日まで。引き渡しが年度末に近いと、ここがけっこう際どくなります。
申請窓口は南アルプス市なら建設部管理住宅課(本庁西別館1階)。書類を揃えて持参する形です。引っ越しの荷ほどきをしながらこれをやるのは、正直しんどい。ですから、引き渡し前から書類の段取りを始めた方が良いです。
国の補助と重ねるとき、気をつけてほしいこと
県ポータルの「最大225万円」は、国の補助を重ねた場合の数字です。2026年度は「みらいエコ住宅2026事業」という制度が動いています。
金額の詳細は制度の公式サイトと登録事業者に確認していただくとして、これだけは知っておいてほしい事実を2つ挙げます。

1. 施主本人は、直接申請できません
これは公式サイトにはっきり書かれています。「補助対象者である一般消費者が直接申請をすることはできません」。申請手続きを行うのは登録事業者です。
ということは、依頼する工務店が登録事業者かどうかで、使えるかどうかが決まるということです。契約前に確認しておくべき項目です。「補助金、使えますよね?」ではなく「御社は登録事業者ですか?」と聞いてください。
ちなみにですが、これだけ情報を書いておきながら申し上げにくいのですが弊社は登録事業者ではございません、、、、
2. 予算には限りがあって、埋まったら終わります
この制度は予算枠が決まっていて、消化状況が公式サイトで公開されています。2026年8月26日時点で、GX志向型住宅が51%、長期優良住宅・ZEH水準住宅が25%。
受付期間としては第2期が2026年12月31日まで(注文住宅のZEH水準住宅は9月30日まで)となっていますが、期限より先に予算が埋まれば、そこで終わりです。
「来年でいいか」と考えている方は、この点だけ頭の隅に置いておいてください。制度は毎年変わりますし、次があるとは限りません。
いつまでに何を決めるか──契約から逆算する
ここまでの話をまとめると、動く順番はこうなります。
いちばん言いたいのは、緑のところです。プランを詰めている段階で決めておく。ここさえ押さえれば、あとは事務の話です。
KAITEKI住宅にしない方がいい場合もある?
ここまで制度の説明をしてきて、最後にこれを書くのもどうかと思うんですが、書かないと嘘になるので書きます。
補助金額も大きなこの制度ですが、全員におすすめ!というわけでもありません。
理由は単純で、認定を取るための工事費の増加が、もらえる補助金を上回ることがあるからです。
断熱等級5から6へ上げる。C値1.0以下を確実に出すために、気密の施工手間と気密測定を入れる。長期優良住宅の認定申請費用も別途かかる。これらを積み上げると、補助金の額を超えてしまうケースが実際にあると思います。とくに床面積が小さめの家ほど、この逆転が起きやすいと思います。補助金は定額ですが、性能を上げるコストは面積に比例しない部分があるからです。
それから、予算がぎりぎりの方。
ここに費用を寄せた結果、収納や外構を削ることになるなら、やめておいた方が良いでしょう。収納を削って後から後悔している方を、何人も見てきました。
ただし──ここが悩ましいところなんですが、断熱と気密は、あとから直せません。収納は後から棚を足せます。外構は数年後でも追加できます。でも壁の中の断熱材と気密シートは、住み始めたらもう触れない場所なんですね。
ですから私は、こう聞くようにしています。「補助金がまったく出ないとしても、この性能にしたいですか?」と。
「したい」なら、補助金は背中を押してくれるおまけです。「補助金があるならやろうかな」くらいなら、いったん立ち止まった方が良いかも知れません。制度は毎年変わりますが、家は変わらないので。

補助金の話から始まって、性能の話で終わる
この制度の面白いところは、入口が補助金で、出口が性能だというところです。
「いくらもらえますか?」から始まり、次第に断熱の話、気密の話、山梨の木の話になっている。そして最後には「で、結局冬の朝どのくらい違うんですか?」という質問に着地する。そっちが本題なんです。
県が示している基準は、正直よくできていると思います。断熱等級6とC値1.0以下という組み合わせは、数字を並べただけの基準ではなくて、設計と施工の両方をちゃんとやらないと届かないように作られている。図面だけでも、腕だけでも通らない。
だからこの認定は、家の性能証明であると同時に、その家を建てた人間の仕事ぶりの証明でもあると、私は受け取っています。
制度の細かいところは、これから運用のなかで変わっていくと思います。市町村ごとの金額も、年度で見直されるはずです。この記事の数字も、必ずご自身で最新のものを確認してください。公式のリンクは下にまとめておきます。
そのうえで、迷ったら聞いてください。うちで建てるかどうかは、そのあとの話で構いません。
▼ この記事の出典(公式サイト)
※ 本記事の内容は2026年8月時点で公開されている情報にもとづいています。制度の内容・金額・期限は変更される場合がありますので、必ず公式サイトおよび各市町村の担当窓口でご確認ください。
「うちの計画でKAITEKI住宅は取れますか」だけでも、どうぞ
他社さんで進めている計画でも構いません。図面を見せていただければ、認定の可否と、いくらくらい変わるかを大工の目で見ます。